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激走・凡走のパターン化

新章『Mの法則』

 今週から、馬券理論「Mの法則」の連載を始めることになった。

 「Mの法則」とは、今から15年以上前に発表され、以来、現在に至るまで支持され、そして未だに進化し続けている馬券理論である。

 なぜ、これほど長い間ファンに支持されてきたのか?

 それは他でもない。競馬の真実がここにあるからだ。そして、実際にそのことが毎年のレースで証明され続けていることで、Mの恐ろしさが私たちの心の中に刻まれ続けているからである。

 Mは、競馬をしているファンが一番疑問に思うこと、そして一番競馬を難しいと感じさせることに、明快な解答を与えてくれている。

 つまり、「同じような条件で前走勝った馬が、次走で同じようなメンバーにあっさりと惨敗する」という現実に対する解答である。

 もし仮に競馬が純粋に能力を競う競技なら、前走で同じようなメンバーに同じような条件で圧勝した馬が、次走で同じようなペースになって凡走することなど説明できない。

 馬の能力に的を絞った競馬理論は、ここで限界に突き当たってしまう。

 しかし、Mはその限界点を実に軽やかに、鮮やかな形で越えてしまうのだ。それがMの怖さだ。その怖さは、私の想像さえも、ときに飛び越えてしまうのである。

 例えば、今年の天皇賞・春。

 戦前の1番人気は本番と酷似した距離のトライアル、阪神大賞典を制したアサクサキングスだった。阪神大賞典勝ち馬は天皇賞・春でも活躍するというデータがあり、しかも天皇賞・春と相性の良い、やはり今回と似た条件の菊花賞勝ち馬でもあるということで、抜けた1番人気に支持されていたのだ。

 しかし、これは危うい1番人気だ。Mがそう言うのである。「この馬は危うい」と。

 一体、この馬の何が危ういと言うのだろうか?


Mとは何か?

 私はこの秋の重賞でも、前日予想で、菊花賞では馬連94倍を1点目、マイルCSでは3連複207倍を1点目など、GIを3点以内で4レース当てた。またGIIではアルゼンチン共和国杯の馬連135倍を2点目で当てた。

 何故、このようにGI、GIIで高配当が1、2点目で次々と当たってしまうのだろうか?

 そこには、Mだけが知る真実が横たわっているのだ。それについて、次週以降、一緒に見ていこうと思う。

 実は、先週書いた話は、連載が夏ぐらいに始まる予定だった頃に書いた原稿だった。しかし、開始は遅れ、年末になってしまったのである。そこで、天皇賞春を使ったMの基本検証の続きは、来年の天皇賞春が近づいてきてレースへの関心が高まる頃へ後回しにすることにした。

 今後しばらくは、記憶の新しい、この秋のGI戦線を中心に「Mの法則」の実践的パターンを1つ1つ解説していこうと思う。そこで、今週はその前の事前知識として、Mとは何か?を簡単に解説しておく。

 Mの法則は、馬の心身状態、特にストレスについて分析した理論である。競走馬は、人間に無理矢理に管理された、人為的な動物だ。したがって、ストレスに弱い。

 では、どういうときにストレスを感じるのか?

 ストレスは、同じようなメンバーとの対戦、同じような条件でのレースをすることなどで蓄積される。そのストレスがピークに達したとき、どのような競走馬でも凡走するのである。

 このストレスには大きく分けて2つある。直近のストレスと、生涯ストレスだ。

 直近のストレスとは、前走を中心としたここ2、3戦のストレスである。接戦をしたり、ショック(これは後で説明する)で激走したりすると溜まりやすい。特に逃げて接戦や、追い込んで接戦の馬はストレスを溜めやすい。

 もう1つの生涯ストレスとは、その馬の競走生涯を通じて溜めたストレスである。これは似たようなメンバーや、似たような条件を長く走り続けることによって蓄積される。

 これらのストレスを詳しく分析することで、冒頭に書いたような万馬券クラスが1、2点目で当てられるようになるわけだ。

 それでは、来週からその実践編に入りたいと思う。


Mの基本概念 「ストレス」

 今週からMの法則の基本を、この秋シーズンで実際に私が当てた重賞を中心に実践編として見ていこうと思う。

 まずは、3連複207倍を携帯予想の1点目で当てたマイルCS。

 このレースには、「鮮度」と「ショック」、「M3タイプ」という、Mの基本概念が詰まっていた。

 その代表が、14番人気で2着に激走したマイネルファルケ。この人気薄を選べるかが、万馬券を1点目で当てられるかどうか
のポイントとなったわけだが、実際、この馬にはMのプラス要素が嫌というほど詰まっていたのである。

 まずはストレス。馬は強い相手と接戦をすればするほどストレスを溜める。これをMでは「直近のストレス」と呼んでいる。

 しかし、マイネルファルケはというと、前走は9着惨敗。ノーストレスである。

 次は「生涯ストレス」。これは生涯を掛けて激戦を繰り返すことで蓄積されるストレスだ。

 マイネルファルケの2走前は重賞ではなく準OP。出走全18頭中、2走前が条件戦だった馬はこの馬しかいない。加えて、今回が初GI。トップクラスの経験が少なく、生涯ストレスがない。こういう馬をMでは「鮮度が高い」と言う。つまり、出走全18頭中、1番鮮度が高いのがマイネルファルケだったのだ。

 マイネルファルケは生涯ストレス、直近ストレスともに、ほぼノーストレスなので、ストレス面ではMにおいて出走馬中最も有利な馬になる。

 もちろん、ストレスがない馬なら何でも来るかというと、そうではない。そうならば、未勝利戦から出走すればみんなGIを勝てるはずだし、GIにも2走前が条件戦だった馬など、よく出てくる。そういう馬をみんな買っているようでは、お金がいくらあっても足りない。彼には他にもMの美味しいポイントがあったのだ。それを次週は見ていこう。


Mの基本概念 「ショック」

 マイネルファルケの2つめのポイントは「ショック」だ。

 前走の富士Sは逃げていなかった。2走前の準OPは逃げきり勝ち。基本的に彼は逃げ馬で、これまでに挙げた全5勝は逃げてのもの。で、今回は逃げ馬が他にいない上に、逃げ宣言をしているので、逃げることは確実。

 前走逃げなかった逃げ馬のことを、Mでは「逃げられなかった逃げ馬」と呼び、高く評価される。

 逃げ馬が逃げないでレースをするということは、前に馬がいるということだ。逃げ馬にとって、前に馬がいることは精神的な負担以外の何者でもない。つまり「辛い思い」である。

 前走、辛かった馬が、次走で楽だったら、馬は喜んで走る。「前走は前に馬がいて嫌だったけど、今回は前に馬がいない。気持ち良いなぁ〜」と、スイスイ走るのだ。

 このように前走の辛い経験から、今回楽な経験をさせるのがMでいう「ショック療法」の基本だ。

 したがって、逃げ馬なら、前走逃げられなかった逃げ馬が、次走で逃げたときに最大の喜びを獲られ、パフォーマンスが上がる。前走逃げていた逃げ馬より、全然、走る喜びが違うのだ。

 なお、このように前走逃げなかった馬が逃げたり、逆に前走先行した差し馬が差したりすることを、Mではショック療法の中でも「位置取りショック」と呼んでいる。

 マイネルファルケが前走の富士Sで、仮に得意の逃げで連対していたら、ストレスは溜まるし、人気になるし、位置取りショックは掛からないしで、三重苦になっていた。もちろん、マイルCSでは穴人気になって惨敗していただろう。同じ馬でも、ローテーションと前走の位置取りによって、今回の結果は全く真逆なものになるのだ。

 このように、凡走することによって評価が上がることの多いのがMの面白さの1つであり、論理的に穴馬券が1,2点で当たられることの源泉にもなっている。

 次はタイプについて考えてみたい。


Mの基本概念 「M3タイプ」

 今週は携帯の前日予想で土曜に770倍、日曜には970倍を、ともに1点目で当てた。このように1点目でも高配当が当てられるのがMの良さの1つだ。この2レースの予想ポイントは今度書くとして、取り敢えず先週までみてきた、やはり200倍を1点目で当てたマイルCSの続きをやっていこう。

 鮮度というのなら、カンパニーはどうなんだ?という議論が出てくるだろう。大穴のマイネルファルケ を鮮度で買ったというのなら、カンパニーは真逆で買えないじゃないか。彼はGIを10回以上走っていて、前走も天皇賞で1着だ。直近ストレスもあれば、生涯ストレスもあるじゃないか、というわけだ。

 もちろん、普通の馬ではストレスで凡走する。が、同馬には3つのポイントがあった。

 まずはMの基本ショックの1つ、「バウンド短縮」。もともと馬は前走より距離が短くなる短縮ショックを好む傾向にある。その中でも、このバウンド短縮は有効な手段だ。

 バウンド短縮とは、2走前に短い距離で距離に慣らし、前走で長い距離を走らせて、今回短い距離に短縮させるという方法になる。2走前に短い距離を走らせるので、今回の短縮で一番マイナスになりやすい、距離短縮で揉まれることや、スピードの違いに戸惑うという心配が軽減する。これにより、「前走より我慢の時間が短く済む」という、短縮の心身に対するプラス面だけが強調されるわけだ。彼も1800m→2000m→1600mという、この「バウンド短縮」だったのだ。

 また短縮にはメンバーチェンジというプラス面もある。今回の場合なら、天皇賞という中長距離メンバーから、マイル路線のメンバーにメンバーが変わる。同じメンバーと対戦するというのも、ストレスを溜める大きな要因になるので、路線変更は有利に働きやすい。

 この春の安田記念は4着に凡走。このときは、前走が同じマイルのマイラーズCで2着。短縮も掛からなければ、メンバーチェンジの恩恵もなかった。サラブレッドは慣れるより、飽きることの方が強い生き物なのだというのが、Mの法則の根幹にあるので、覚えておいて頂きたい。

 次は彼のM3タイプ。M3タイプとは、馬の性格を3つに分けた性格分析論である。私が『競馬王(白夜書房)』で連載している「予想着順」というコーナーでは、オープン馬のタイプが書いてある(毎コミの携帯にも、「レースのポイント」にこのコーナーがある)。それによると彼は「C系」とある。C系とは、集中力で強い相手にも怯まず、集中状態では連続好走出来るタイプだ。したがって、集中状態にある今回は多少のストレスは我慢する可能性がある。

 また、C系は馬群に怯まないので内枠向き。勝った天皇賞・秋でも18頭立ての3番枠。今回のマイルCSでも18頭立ての4番枠と内枠だった。逆に08年の天皇賞・秋は外枠の16番枠で4着、マイルCSも16番枠で4着と凡走している。昨年と今年の差は、実はこの枠順が非常に大きい。馬群に怯まない分、逆にMでいう「量」というものが少なく、外々をぶん回すような競馬は合わないのだ。

 逆に同じ短縮で出ていて3番人気に支持されたキャプテントゥーレは非C系になる。あまり揉まれるのが好きではないので短縮も大きなプラスではない。また全2走とも2000m。バウンド短縮でもなかった。したがって、キャプテントゥーレは4着に終わったのだった。


Mの基本概念 「鮮度」

 最後の締めは外国馬サプレザをどうするかだ。日本初戦で鮮度が高い。ただ、日本初戦なのは、外国馬なら当たり前の話だ。実際、JCでは何頭も日本初戦の外国馬が出ていたのに、馬券圏内には一頭も入れなかった。

 サプレザの場合は、生涯でもまだGIを二度しか走っていない。さらには中6週でリフレッシュもしている。鮮度自体が高いのだ。したがって、マイルCSでは単勝8.7倍のサプレザを評価し、JCでは単勝4.9倍のコンデュイットの評価を押さえに回した。コンデュイットは凱旋門賞、ブリーダーズカップターフという超一流GIを連戦して好走。加えて今回は中2週。GIはこれで7度目。鮮度がサプレザより低すぎるのだ。実際、レースの中身も全く違った。サプレザは当日の雨で伸びない外をただ1頭だけ伸びて3着。外伸び馬場なら楽に突き抜けて勝っていたであろう内容だった。逆にコンデュイットは特に問題なくレースを消化して4着。最高に上手く乗っても3着までという内容に終わった。

 このMによる外国馬判断によって、私の携帯前日予想では、JCは3点目で馬連を当て、JCDも1点目で当てた。そしてマイルCSの3連複207倍も、同じ外国馬判断により1点目で当てたのである。このように、外国馬にさえ容赦なく猛威を振るうのが、Mの法則の恐ろしさであり、厳しさなのだ。


Mの基本概念 「時系列」

 京都金杯にマイルCSの解説で触れたマイネルファルケが2番人気で出てきた。それもそのはず、GIIIに前走同じ条件だった京都マイルのGIで2着に好走した馬が出てきたのだ。人気になるのは仕方ない。

 しかし、この連載を読んでいる読者なら、早速復習が出来たはずだ。「この馬は危ない」と。

 マイルCSが前々走逃げなかった後の所謂、「逃げられなかった逃げ馬」のショック。それでGI激走。普通、GI連対なら評価が上がるところだが、Mでは逆だ。GIという最高レベルで位置取りショックを決めて激走した後ではかなりのストレスがある。そこで私は14番人気のマイルCSでは3番手評価にした同馬だが、2番人気のストレスがある今回は5番手評価に落とした。結果はその通りの5着。

 この結果で、マイルCSの解説のとき、「仮に富士Sを逃げて好走していたら、マイルCSでは穴人気になって惨敗していただろう」という解説をした意味が分かったはずだ。好走により評価が下がり、凡走により評価が上がるときがある。これがMの面白さであり、論理的に穴を取れる構造そのものである。

 競馬は、馬の心身の記憶の連鎖として、このように前々走、前走、次走と数珠つなぎに結果を支配しているのだ。だからこそ、全く同じ条件で、強い相手に好走した同じ馬が、次走で弱い相手に凡走したりするのだ。この時系列こそがMの基本概念の1つでもある。

 もちろんこの凡走でマイルCSをフロックと思ってはいけない。GIという最高レベルでショックを掛けて激走した後のストレスを我慢して5着なら、よく走っている。充実した内容と評価して良いだろう。


 この間、連載がマイルCSの途中だったので、その後に話をすると約束しておいた、3連単の976倍を前日予想の1点目で当てたレース(携帯サイト)について解説しておこう。

 Mは、当たるときは900倍だろうがなんだろうが、1,2点目で当たりやすい。特に荒れるレースになればなるほど、論理的(M的)に荒れるという性質を持っている。先程のマイネルファルケの話でもそれは分かるだろうが、このレースのポイント解説を読んでいるうちに、その意味はさらにクリアに見えてくると思う。

 このレース(江坂特別12/27阪神10R)はまず、人気馬が軒並み危なかった。


危険な人気馬の見分け方(1)

 先週は900倍を当てた江坂特別では、人気馬がみんな危なかったというところで話が終わったので、その続きを見ていこう。

 1番人気のキタサンアミーゴは前走が2着接戦後。ストレスが気になるし、今回は「差し馬の延長」になる。差し馬は、前が自然に潰れる短縮をどちらかというと好む傾向にある(馬のタイプにもよるが)。したがって「差し馬の延長」は前走が好走の場合は、Mでは「逆ショック」と呼ぶので注意して欲しい。特にキタサンアミーゴの場合は前走短縮で連対しているので、今回の延長を心地よく感じる可能性はあまり高くない。

 次は2番人気フィニステール。前走3着好走後の差し馬の延長。キタサンアミーゴと同じ危うさを内蔵しているのだが、それ以前にダンスインザダーク産駒というのが危ない。2200m以上を3走連続で走って3回とも4着以内に好走中。長距離に飽きている。飽きやすいダンスインザダーク産駒には非常に危険なステップだ(血統別の飽きやすさについては、詳しくは血統の連載である「馬券の天才、かく語りき」を参照にして欲しい。なお、このレースでフィニステールは6着に凡走したお陰で「飽き」が取れて、次走は3番人気に人気を落としながらも1着となった)。

 3番人気コパノジングーは前走、追い込んでタイム差なしの5番人気2着接戦と大激走。「追い込み接戦」や、「逃げ切り接戦」はMではストレスの非常に溜まりやすい形とされているし、アグネスタキオン産駒は『大穴血統辞典(白夜書房)』によると、疲労に強くなく、ストレスに強いわけでもないので余計に危ない。

 そこで本命にしたのが4番人気タガノファントム。前走は4着凡走。ストレスがないし、今回は200m延長で、前走より緩い流れが想定されるので、前走よりも楽に前に行ける。「前走より楽に感じると馬は走る」というのがMの基本だ。したがって「先行馬の延長」は「順ショック」となる。

危険な人気馬の見分け方(2)

 対抗は5番人気マイネルシュトルムとした。前走が0.2秒差の圧勝で格上げ戦。格上げ戦は鮮度が高く、M的には有利とされる。特に接戦でない場合は精神的なアドバンテージが出やすい。また間隔が2ヶ月以上開いている。この馬は先行馬で、逃げ、先行馬の方が間隔が開いていると気分良く走れる。リフレッシュして気持ち良く前に行けるからだ。休養で貯めた生命エネルギー(プラス体重の場合は特に)を点火させるには、追い込みより、素直にダッシュで点火できる逃げ、先行の方がよい。また追い込みの場合は休み明けでいきなり馬群に入ると、精神的に競馬がバカらしく感じる危険性が出てくる。この「休み明けは太目の逃げ、先行馬」というのは、Mの基本なので覚えておくように。

 3番目に選んだのは7番人気イネオレオ。前走が14着惨敗でストレスがない。しかし、前走は2番人気。力があるのにストレスがないのは美味しい。また同馬はダンスインザダーク産駒。ダンスインザダーク産駒は飽きやすく、気侭。したがって同じダンスインザダーク産駒を買うなら、好走後で人気のフィニステールより、惨敗後で人気薄のイネオレオの方が馬券的期待値が高い。もちろんスタミナのあるダンスインザダーク産駒だから、急坂阪神替わりも問題ない。加えて、今回は2200m→2500m→2400mの「バウンド短縮」。このショックの効能については以前説明したとおりだ。

 結果、タガノファントム1着、マイネルシュトルム2着、イネオレオ3着と、私の予想した順番通りに入線して、3連単976倍を1点目で当てることが出来たわけである。

 このような解説を読むと、「前走好走馬は危ない」と思われるかもしれない。しかし、競馬は前走凡走した馬より、好走馬の方が好走確率はもちろん高い。

 この矛盾はなんなのか?その構造に気付けば、Mのマスターは近い。次週はそんな観点からレースを見ていこう。

危険な人気馬の見分け方(3)

 ちょうど先週江坂特別で話に出たイネオレオが出てきたので振り返っておこう。

 前回は前走14着後で飽きていないダンスインザダーク産駒なので、3番手に評価したと書いた。そして実際、7番人気で3着に好走して、900倍を1点目で当てる立役者の一頭になってくれたのである。3着後で飽きているダンスインザダーク産駒のフィニステールを買うぐらいなら、こっちのダンスインザダーク産駒の方がよいという話だった。

 その好走を評価されて、次走の睦月賞では2番人気に支持された。それもそのはず、前走好走したのと同じ2400mなのだから、その評価も仕方ないだろう。

 しかし、もちろんこの連載の読者なら、危ない人気馬だと分かるはずだ。今回は飽きている。特に飽きやすいダンスインザダーク産駒には危険極まりないステップだ。ここ4走2200m以上を走って前走が3着に激走。これでは飽きるなと言う方が難しい。そこで私は2番人気の同馬を8番手評価として、実際に7着に凡走したのである。このように、馬は常に、前走や次走の時系列の中で生きている。同じ条件でもあっさりと負ける理由は、力などでは説明しきれない。Mでしか説明できない現実がそこにはあるのだ。

 と、ここまで書くと、どうしても前走凡走馬に目がいくだろう。だが、好走馬の方が、好調なだけに次走も凡走馬よりは好走する確率が高いのもまた競馬だ。では、どのような好走馬を買えば良いのだろうか?

 同じダンスインザダーク産駒という意味で、菊花賞を使いながら、その辺りを考えていきたい。


菊花賞から見る好走パターン(1)

 前回は前走好走馬がそのストレスを押さえて好走するパターンについて見てみた。

 このパターンをマスターすればMの幅が広がり、穴の精度も上がっていく。

 そこで、その具体例として以前から解説を書くと言って後回しになっていた菊花賞で分析してみよう(ちなみに先週行われたダイヤモンドSも菊花賞と全く同様のM構成をしていた。結果は予想で上位に取りあげた3頭が4着以内に入り、縦目で決まった。このようにこれから話す構造は、長距離重賞では特に起きやすい現象になる)。

 このレースで私が本命に選んだのが、7番人気フォゲッタブル。対抗が8番人気のスリーロールスだった。

2009年菊花賞 レース結果


 フォゲッタブルは前走重賞で7番人気3着と激走。スリーロールスも1000万条件を3番人気1着と好走。ともに前走好走馬だった。

 もちろんスリーロールスの場合は、M的な解説は極めて簡単だ。前走が1000万の弱いメンバーに完勝。相手が弱いのでそれほどストレスは残らないし、なんと言っても、条件戦からGI挑戦だから、生涯鮮度が抜群だ。

 Mでは「格上げ戦」や「格上挑戦」はプラス要素として評価されるので、基本事項として覚えておいて欲しい。

 生涯鮮度と中期的鮮度がともに高いわけだから、精神的には極めてフレッシュ。相手が変わるのもストレスからの解放を促す。

 ただ、それがマイナスショックだと危険な格上げ戦の馬となる。

 マイナスショックとは、前走より辛く感じる状況だ。例えば前走より苦手な条件や、スローで逃げた馬が昇級でハイペースになりそうなときなどである。この場合は、格上げのメンバー強化という物理的マイナス面の方が、メンバーチェンジの精神的鮮度を上回ってしまう。あくまでも、馬が気持ち良く走れるかどうかが、Mの評価基準だからだ。

菊花賞から見る好走パターン(2)

 では、スリーロールスの場合はどうだったか?

 この馬は逃げ馬。前走は1800mだったので、スローとは言え、テンの3ハロンは35.4秒。2200mも延長になる菊花賞がこれより速い流れになる可能性はそれほど高くない。

 これをMでは「逃げ馬の延長」と呼び、「順ショック」になる。逃げ、先行馬は前走より緩い流れの方が気持ち良く走れるのは想像に難くないだろう。しかも今回は阪神から京都替わり。直線の負担が減るのも延長の先行馬には嬉しい。

 そして父がダンスインザダーク。フレッシュな状態においては延長を好む血統だ。そういう意味でも順ショックになる。また、これは血統の連載(『穴馬は走りたがっている』参照のこと)で散々書いたのだが、ダンスインザダーク産駒は飽きやすい。したがって、条件戦からGIで、1800mから3000mというような極端な条件変更は、飽きやすさからの解放という意味で、非常に有効な手段になる。

 むしろM的に難しいのはフォゲッタブルの評価だ。前走が1000万負けからGIIへの格上挑戦で7番人気3着と激走した馬なのだ。つまり、前走がM的な鮮度を使って好走したわけである。これは通常ならMではストレスで危ないパターンだ。

菊花賞から見る好走パターン(3)

 今週の中山記念で400倍を当てた。このレースは準OP勝ち後で、鮮度の高いキングストリートが1番人気に支持されて凡走したのだった。このように、鮮度があってストレスが無くても凡走する馬はいくらでもいる。それを知ればMの幅は大きく広がっていくのだ。どのような鮮度馬が危ないかは、今回の菊花賞の振り返りが終わったあとに、このレースを振り返りながら解説しておこうと思う。

で、先週の続きだ。フォゲッタブルの前走ストレスについての話である。

 今回は事情が違った。というのも、GII負けからGIへと、実質的には格上挑戦と同じ形になるからだ。メンバーは変わるし、レベルも変わる。そして距離も800m延長。条件も変わる。つまり短期的ストレス面でもむしろフレッシュになるプラス材料の方が多いのだ。しかも父はやはりダンスインザダーク。この条件の大幅変更は飽きやすさからの解放として有効だし、そもそも鮮度の高いときの延長を好む血統でもある。何もかもが順ショックだ。

 問題は「差し馬の距離延長」という点だろう。これはMでは逆ショックと言える。それを相殺するには、鞍上が強気に乗るかどうかに掛かっている。延長で前走より前に行く位置取りを掛ければ、位置取りショックがつくし、延長向きの血統的スタミナも活かせる。したがって、私はスタートだけを見ていた。スタートである程度仕掛けて好位を取れば好走は確実。逆に距離を意識して過剰に抑えたら3着も危ない。そして鞍上は・・・、スタートから鞍上は気合いを付けてくれた!これで連対は確実となった。

菊花賞から見る好走パターン(4) 単勝爆弾とは

 あとは、スリーロールスが勝つか、フォゲッタブルが勝つかだ。ペースが緩めば「先行馬の延長」の順ショックが炸裂するスリーロールスが勝つし、ペースが締まれば差し馬のフォゲッタブルが差し切る。

 しかし、実は私の予想はここでお終いなのだ。実際のところ、ペースが上がるか、緩むか、長距離では確固たる逃げ馬がたくさん出てこない限り、短距離と違って騎手の意向次第で好きなポジションが取れるので、事前に読むことは物理的に不可能だ。

 もちろん予想という意味ではどちらかを本命にしなければならない。

 しかし、実際の馬券という意味では事情が違う。私は両方の単勝を同額買った。ペース次第でどちらかが勝つ。それなら、両方の単勝を買えばよい。そうしておけば、別に当日、どんなペースになっても焦りもしなければ、興奮することもない。両方の単勝はともに約19倍。どちらのペースになってどちらが勝とうが、約9倍儲かるのだ。

 結果、流れが落ち着いてスリーロールスが勝って単勝19.2倍をゲット。馬連94.1倍ももちろん1点目で当てたが、実はこの単勝の方が確実で、意義深いものなのである。

2009年菊花賞 レース結果


 この単勝多点買いをMでは「単勝爆弾」と呼ぶ、必殺の馬券作戦になる。